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種類: Thesis or Dissertation
タイトル: 女性うつ病患者の重要他者との関係性における認知に焦点をあてた集団で行う認知療法プログラムの開発
タイトル別表記: Development of Cognitive Therapy Program in Groups Focused on Cognition Regarding Relationships with Significant Others in Female Patients with Depression.
著者: 岡田, 佳詠
著者名ヨミ: オカダ, ヨシエ
指導教官: 萱間, 真美
キーワード: 認知療法
集団
女性
うつ病
認知
調査法・尺度: 自動思考質問紙短縮版
ATQ-R
非機能的態度尺度日本語版
DAS24-J
発行年月日: 2007年3月8日
抄録: Ⅰ.研究の背景 うつ病は、社会生活機能の障害を引き起こす重要な要因と考えられ、社会情勢や現代社会のストレスから世界的規模で増加傾向にある。日本でも増加の一途を辿っている。なかでも女性は、自殺率は低いが発症率は男性の2倍で、家族など親密な対人関係に関心を抱き、安定した関係を求めること、重要他者との関係やコミュニケーションの不全状態などが、うつ病の発症や症状維持等に影響するとされている。日本では、依然として女性に、家族など身近な重要他者との関係を重んじ、相手への配慮や従順さなどを求める傾向が根強く残っているため、これらに関連する特有の認知、すなわちものの見方・考え方が、うつ病の症状を含む社会生活機能の低下と関連すると推察される。このように女性のうつ病は、現在日本における重要な社会問題の一つと考えられるが、女性の特徴を踏まえた対策は遅れている。またうつ病は、疾病による社会生活への深刻な影響と同時に、日本では症状の慢性化、難治化がみられている。この背景のひとつに、社会生活機能の改善に対するアプローチの不足があり、なかでも看護職のうつ病患者へのケア技術は十分確立していない。一方で、うつ病治療の一つとして、患者の認知に働きかけることで社会生活機能の改善をめざす認知療法が開発され、なかでも昨今集団認知療法の有効性や優れた点が指摘されている。しかし日本では、現在数ヶ所の施設で実践・研究が行なわれているのみで、それらの目的も職場復帰や職場適応が主であることなどから、必然的に参加者が男性患者に偏る傾向がある。女性患者は多いものの十分な対策、ケア技術が発展していない現状、女性うつ病患者に特有の認知が社会生活機能の低下と関連している可能性を考慮すると、日本における、女性うつ病患者の認知に焦点をあてた集団で行う認知療法が必要と考えられる。そこで、日本の女性うつ病患者の認知の特徴と社会生活機能の低下との関連について記述した結果などから概念枠組みを作成し、その概念枠組みと既存の集団認知療法とを統合した後、女性うつ病患者の重要他者との関係性における認知に焦点をあてた集団で行う認知療法プログラムを作成した。それを臨床で実用した上で、修正・精錬を目的に評価を試みた。 Ⅱ.研究の目的 本研究では、今回作成した、女性うつ病患者の重要他者との関係性における認知に焦点をあてた集団で行う認知療法プログラムを修正・精錬するために、臨床的に評価することを目的とした。 Ⅲ.研究の意義 まず女性うつ病患者への対策の一つとして、今回作成したプログラムを提供することができる。また精神看護領域においては、うつ病患者への社会生活機能の低下に対するケア技術等の発展に貢献できる。さらに、認知療法の臨床・研究では、今後需要が高まると想定される集団認知療法のプログラム内容・技法の発展に、女性に特化した視点から貢献できる。 Ⅳ.研究方法 1.研究デザイン 質問紙データの分析結果と、対象者へのインタビューデータをグラウンデッド・セオリー・アプローチの手法を用いて質的に分析した結果とを組み合わせるデータソースのトライアンギュレーションを行なった。 2.期間 2006年4月から9月中旬。 3.研究フィールド 関東圏にある総合病院内精神神経科。 4.対象 1)対象者の条件と対象数 対象者は次の条件を満たす女性患者で、プログラムの1クールにつき10名、計20名であった。①単極性のうつ病と医師により診断された患者、②20歳~64歳、③入院中または外来通院中であること、④症状が安定していること、⑤以前に認知療法を受けた経験がないこと、⑥常勤またはそれに準ずる仕事に就いていないこと、⑦グループへの参加を希望し、研究への協力が得られること。 2)対象者の選定 ①対象者募集は、2006年4月及び6月の計2ヶ月間実施した。 ②プログラム案内のパンフレットを作業療法室や外来等に貼り、また主治医からも、診察時に適用の可能性のある患者には配布を依頼した。 ③研究者は院内の研究室等で待機し、参加希望の連絡があった患者に対して、研究協力依頼書等を用いて、研究の目的・方法、倫理的配慮等について説明し同意を得た。 5.データ収集方法 データ収集は、質問紙、インタビュー、セッション中の観察、対象者がセッション中に記述したワークシート、カルテの記録より行なった。 1)質問紙の方法と内容 質問紙でのデータ収集は、プレセッションから最終回セッションまでの毎グループ開始または終了時に行なった。使用した尺度は次のとおりであった。 (1)自動思考質問紙短縮版(ATQ-R):認知療法で定義される自動思考を測定するためのもので、項目数は12であった。 (2)非機能的態度尺度日本語版(DAS24-J):認知療法で定義されているスキーマを測定するためのもので、項目数は24であった。 (3)ベック抑うつ質問票・第2版(BDI-Ⅱ):うつ病の症状の重症度を判定するためのもので、主に身体・感情的側面、認知面を測定する21項目で構成されていた。 2)インタビューの方法と内容 インタビューは、プレセッションと最終回セッション終了後に、精神看護領域で修士課程以上を修了した研究協力病院スタッフ以外の看護師3名が行なった。プレセッション時のインタビュー時間は15~30分、最終回セッション終了後は30~50分で、インタビューはプライバシーが保たれる面接室を使用した。面接内容はintegrated circuit(IC)レコーダーに録音し、対象者の表情・態度などは終了後に想起して記録した。面接者はインタビュー項目に沿いつつ、対象者の自由な表現を妨げないように話を聴いた。 3)その他のデータ収集方法と内容 観察者が、セッション中の対象者の重要他者との関係上での認知面、コミュニケーションなどの行動面、社会生活機能等に関する発言内容、メンバーとの相互交流の状態について解釈を入れずに事実のみを記載した。また、対象者がセッション中に記載したワークシートは、毎回セッション終了時にコピーをとった。カルテは、対象者の生活背景、治療状況等を把握するために参照した。 6.データ分析方法 BDI-Ⅱ、ATQ-R、DAS24-Jなどの質問紙データは、各々、プログラム開始前・後で度数分布などを検討した後、Wilcoxonの順位和検定を行なった。インタビューデータはすべて逐語録を作成し、対象者が用いた言葉を抜きだしてコード化した。次に、プログラムを受けたことで、対象者の重要他者との関係性における認知やそれに関連する行動、またうつ病の症状や重要他者との関係上の問題など社会生活機能の低下などが、どのような状態からどう変化・改善したかというプロセスに注目し、また対象者の言葉をできるだけ用いながらカテゴリー化した。さらに、各々のカテゴリーを精錬し、カテゴリー間の関係性を導き出すために、対極するカテゴリー同士、年齢などの個人要因間でのカテゴリーの比較、各個人の変化・改善に関するプロセスと統合したものとの比較検討等を繰り返し行なった。これらの分析の妥当性を高めるため、指導教授のスーパーバイスを受けた。 また、観察記録は、認知・行動面、社会生活機能、グループ内での相互交流の状態に着目しながらコード化し、インタビューデータの分析時の参考とした。その他のデータも、インタビューデータの分析時の参考とした。 7.倫理的配慮 研究開始前に、聖路加看護大学研究倫理委員会(No.05-073)と研究協力病院内の倫理委員会より研究実施の承諾を得た。また研究者はプログラム開始前に、対象者に対して研究の目的・方法、倫理的配慮等に関して文書を用いて説明し同意を得た。倫理的配慮の主な内容は次のとおりであった。①研究への協力は自由意志によること、②いつでも研究協力を取りやめることができ、治療上不利益を被ることはないこと、③データは個人が特定できない処理を行なうこと、④データは本研究以外には使用せず、終了後すみやかに焼却・抹消すること、⑤データの内容は、研究関係者以外に洩れることは一切ないこと、⑥インタビュー時、話したくないことは話す必要はないこと、⑦対象者に状態の悪化等がみられ、主治医の診察が必要と判断した場合、最大限同意を得た上で研究を中止し、主治医に報告すること、⑧専門学会への発表に際して個人情報はすべて匿名化すること。 Ⅴ.結果 1.対象者の属性 対象者は、第1クール、第2クール合わせて計20名で、そのうち13名が最終回セッション終了後の面接まで参加した。年齢構成は、20歳代後半が1名、30歳代が4名、40歳代後半が4名、50歳代後半が2名、60歳代前半が2名で、平均年齢は46.38歳(SD=11.74)であった。また、社会的役割等については、妻が9名、嫁が5名、母が3名、職業人が2名などで、ひとりの対象者がいくつもの役割を同時に持つ場合もあった。重要他者は、夫、両親、子供、舅姑などであった。プログラム以外の治療内容として、全員が抗うつ薬など、何らかの薬物療法を受けていた。また、以前に独自で認知療法を学習した経験のある者は1名であった。 2.プログラムの目的・内容に応じた女性うつ病患者の変化・改善 1)認知の変化 ATQ-R、DAS24-Jについて、Wilcoxonの順位和検定を行なった結果、ATQ-Rはプレセッション時よりも最終回セッション終了後に統計的に有意に低下した(Z=-2.41、p<.05)が、DAS24-Jは有意な差がみられなかった(Z=-1.86、n.s.)。また、インタビューデータの分析結果から、女性うつ病患者にはプレセッション時、≪非適応的な認知≫があったが、最終回セッション終了後には、≪関係性における適応的な認知への変化≫がみられた。 2)行動の変化 インタビューデータの分析結果から、まずプレセッション時、女性うつ病患者には≪コントロールを喪失した行動≫があったが、最終回セッション終了後には≪コントロールを回復した行動への変化≫があった。 3)うつ病の症状の変化 BDI-Ⅱについて、Wilcoxonの順位和検定を行なった結果、プレセッション時よりも最終回セッション終了時に統計的に有意に低下した(Z=-2.55、p<.01)。また、インタビューデータの分析結果から、女性うつ病患者にはプレセッション時に≪うつ症状に関連する気分状態≫や≪身体症状≫があったが、最終回セッション終了後には≪気分状態の改善≫≪身体症状の軽減≫がみられた。 4)重要他者との関係性の改善 インタビューデータの分析結果から、女性うつ病患者には、プレセッション時から終了後までの間に、第1段階【参加前の重要他者との関係性における問題を抱えた状態】、第2段階【認知療法における患者の変化(プログラム内)】、第3段階【社会生活における重要他者との関係性の改善】をコアカテゴリーとする認知療法による重要他者との関係性改善のプロセスがあった。 (1)第1段階【参加前の重要他者との関係性における問題を抱えた状態】 この段階は、プレセッション時、女性うつ病患者が≪重要他者との関係上での問題≫を抱える中、≪非適応的な認知≫と≪コントロールを喪失した行動≫が互いに関連しあい、≪うつ症状に関連する気分状態≫や≪身体症状≫を引き起こすと同時に、それらが認知、行動にも影響し悪循環をきたす状態にあり、プログラムの参加に対してさまざまな≪参加の動機・期待≫を持つことを表していた。そして、≪参加の動機・期待≫は、第2段階を促進していた。 (2)第2段階【認知療法における患者の変化(プログラム内)】 この段階で、女性うつ病患者はプログラム開始後、テキストを用いた学習を通して≪認知・行動に関する知識・方法の獲得≫をすること、またメンバーとの交流を通して≪共通の体験を分ち合い安心できること≫を体験した。≪共通の体験を分ち合い安心できること≫は、メンバーから≪認知・行動の変化を促すアドバイス≫を得ることにつながった。これら3つの変化は、第3段階に移行する要因になっていた。 (3)第3段階【社会生活における重要他者との関係性の改善】 この段階で、まず≪関係性における自分への気づき≫があり、この気づきは、≪関係性における適応的な認知への変化≫≪コントロールを回復した行動への変化≫に発展していた。また、≪認知・行動に関する知識・方法の獲得≫、メンバーから≪認知・行動の変化を促すアドバイス≫が直接作用して、≪関係性における適応的な認知への変化≫≪コントロールを回復した行動への変化≫を生じる場合もあった。そして、≪関係性における適応的な認知への変化≫と≪コントロールを回復した行動への変化≫は互いに関連しあっており、認知の変化が先に生じて行動に影響する場合もあれば、逆の場合もあった。 このような認知、行動の変化は、≪重要他者との関係上の問題の改善≫≪気分状態の改善≫≪身体症状の軽減≫を生じていた。これらのうち、≪重要他者との関係上の問題の改善≫は、≪気分状態の改善≫も促進していた。また≪気分状態の改善≫と≪身体症状の軽減≫は互いに影響しあっていた。さらに≪重要他者との関係上の問題の改善≫≪気分状態の改善≫≪身体症状の軽減≫は、前述の認知、行動の変化にも影響を与え、≪新たに生じた期待・望み≫につながっていた。 5)分析結果の統合 以上の結果を統合すると、今回作成したプログラムは、女性うつ病患者の重要他者との関係性における認知・行動の変化、うつ病の症状の改善、重要他者との関係性の改善に寄与することが示された。 Ⅵ.考察 1.既存の集団認知療法に関する研究結果との比較 ATQ-R、BDI-Ⅱは、プレセッション時と最終回セッション後で統計的に有意な差があり、また、インタビューデータの分析結果でも、≪非適応的な認知≫が≪関係性における適応的な認知への変化≫に、≪コントロールを喪失した行動≫が≪コントロールを回復した行動への変化≫に、≪うつ症状に関連する気分状態≫と≪身体症状≫がそれぞれ≪気分状態の改善≫≪身体症状の軽減≫に変化した。これらの結果は、既存の研究結果を支持している。 また、今回のように、うつ病患者の認知療法プログラムを作成し、その評価の一環として、参加者の変化のプロセスを質的に分析した研究は、現在報告されていない。その点で、今回の作成・評価は有意義だったといえる。しかし、今回示したプロセスのコアカテゴリーを構成するカテゴリー、カテゴリー間の関係性は、対象の個人要因によって変化する可能性があるため、今後この点を考慮して、カテゴリー、カテゴリー間の関係性についての精錬、プロセスの再検討を行なう必要があろう。 2.本研究で作成した女性うつ病患者を対象とするプログラムの有用性 今回、≪非適応的な認知≫にみられた女性うつ病患者特有の認知、それに関連する行動、重要他者との関係性の改善などの点で変化が生じたことから、今回作成時に盛り込んだ女性患者特有の認知、行動面に関する内容が有用だったと考える。また、今回の結果と、プログラムの基盤となった概念枠組みとを比較した結果、概念枠組みを構成するカテゴリーの一部、カテゴリーの関係性は支持されたが、それ以外のカテゴリーの構成要素には違いがみられた。そこで、今後も継続して概念枠組みの再検討を行ない、より女性うつ病患者の特徴を活かしたプログラムに改良する必要がある。 3.インタビューデータの分析結果からの実践への示唆 今回主観的な体験に基づくプロセスを記述したことで、患者の変化のプロセス、患者の主観的な体験を理解した上での実践が今後可能になると考える。また、プログラム導入前のアセスメントでは、患者の抱える問題に関連する認知、日常生活を含めた社会生活行動、気分状態、身体症状の関係性に関する視点を持つことが重要と考える。さらに、事前面接での患者への動機づけも重要である。患者の変化を促す介入として、今回問題解決につながった方法を今後も積極的にセッションに取り入れていくこと、グループ内では治療的な体験が得られるように働きかけること、患者の気づき・変化へのフィードバックが重要であろう。 4.精神科看護師が集団で行う認知療法を活用すること 女性うつ病患者は、≪共通の体験を分ち合い安心できること≫の体験、≪認知・行動の変化を促すアドバイス≫が得られるなど、1対1の患者―看護師関係では得られない、患者間の相互作用による治療的な体験、対人関係スキルの学習ができていた。この点は、グループ内のそのとき、その場での患者同士の相互交流場面への介入が効果的だった可能性を示すもので、グループで行ったことの効果と考える。このことから、精神科看護師がグループを用いることは、ケアの提供範囲を広げる重要な機会になると考える。また、これまでうつ病患者への看護では、認知へのアプローチが強調されず、具体的な方法も確立されてこなかった。しかし、今回認知へのアプローチが、患者の変化・改善に寄与することが示された点から、今後認知へのアプローチを積極的に活用することが必要と考える。 5.本研究の限界と今後の課題 今回対象数が少なく、対象者の年齢構成などの点でも偏りがあったことから、分析結果の一般化は難しいため、今後データの蓄積が必要である。また、対照群を設定していないことにより、プログラムの有効性について十分に述べることができない点から、今後対照群を設けた研究による検証が必要であろう。 6.本プログラムの修正点 今回の分析結果から、作成したプログラムの有用性は全体的に示唆され、目的や内容などについて、大幅な修正は必要ないと考える。しかし、インタビューデータの分析結果において、新たに抽出したカテゴリー、またカテゴリーの構成要素に違いがみられたことなどから、それに応じたテキストの修正、実施への留意点を示すことが必要である。
注記: 聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程
学位分野: 博士(看護学)
リンクURL: http://hdl.handle.net/10285/1237
出現コレクション:2-3-b:博士論文(要旨あり)

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